雨と嘘
雨が降ると、小学生の頃を思い出す。
学期が変わるタイミングだったから、学校にある物を整理しなくちゃいけくて。机の中はもちろん、学校にある自分の絵とか、書道とか。
あの日もちょうどこんな雨で、私は夏休みの課題で出した「ポイ捨て禁止」を訴えるポスターの絵を持って帰らなくちゃいけなくて。校内で銀賞を獲ったやつ。
だけど困ったことに、大きな画用紙は丸めたってランドセルには入らなくて。他の物でいっぱいだったから。それで、せっかく描いた絵を折り曲げるのも嫌だったから、丸めて、輪ゴムで留めて、手で持ったまま帰ったの。
だけど、その日の私は傘を持ってなくて。幸い家は学校から近かったけど、それでも濡れないように、折り曲げないようにって、まだ小さい体で必死に抱えて持ち帰った。とても長い時間だったと思う。
...ようやく着いたと思ったら、玄関は鍵が閉まってた。
よくあることだし、驚きはしなかったけどね。だって、家が見えた時から敷地に車が一台も停まってないのは見えたし。きっとタイミング悪くお母さんが買い物にでも行ってるんだって、思った。
いつも通り、玄関の前の屋根がついた階段で、座って待って、向かいのおうちを何の気なしに見ながら、過ごす。
私の家は団地にあったから、車が水を踏んづけながら近づいてくる音が聞こえる度、そっちの方を見た。帰ってきたかなって。
確か、2,3回の期待外れがあったと思う。その度になんとなく、悲しくなって。
どのくらいの時間を待ったかは、分からない。けど、もしかしたら、このままずっと帰ってこないんじゃないかって、段々不安になってきて。
そう思い始めた時、青い車がやってきた。それで、私の家の敷地で停まった。
帰ってきたの。お母さんが。
もちろん、嬉しかった。とっても。
降りてきたお母さんが私に言った。
「ごめん。待ったでしょ。」
「もっと早く帰るつもりだったんだけど。ごめんね。」
それで、玄関の鍵を開けながら、言った。
「寒くない? 寂しかったでしょ。」って。
家に入りながら、私は言った。
「ううん。そんなに待ってないよ。大丈夫。」
リビングに入った私は、持ち帰ってきた絵が無性に気になった。
輪ゴムを外して、開いた。
...だめだった。待ってる時から、薄々気づいてはいたけど。
安っぽい画用紙に水性の絵の具で描かれた汚れた川とゴミの絵は、降ってきた雨のせいで、ところどころが滲んで、さらに汚れて見えてしまって。
また、悲しくなった。後ろめたかった。
だから、どうでもいいんだって、言い聞かせた。
雨で濡れた絵は、まるで私の心を映すように色がぐちゃぐちゃに混ざっていて。
お母さんには、見せられなかった。
...これは、お母さんが描いたもの、だったから。
私は、嘘つきだ。